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東京地方裁判所 昭和29年(行)93号 判決

原告 西陣リング有限会社

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金百二十七万三千七百円及びこれに対する昭和二十九年九月十八日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負損とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「第一、原告会社は群馬県桐生市三吉町百九十番地の一において、昭和二十二年一月三十日有限会社清水鋳工所の商号のもとに鋳造業を目的として設立された有限会社で、昭和二十六年八月ごろよりパチンコ球遊器(正確にいえばその未完成品であること後記のとおりであるが、しばらくパチンコ球遊器という)の製造販売をしてきたものであるが、昭和二十九年七月一日西陣リング有限会社と商号を変更した後同月二十二日社員総会の決議によつて解散し現に清算中のものであるところ、原告は昭和二十七年一月から昭和二十九年六月まで別表のごとく昭和二十六年十一月分から昭和二十八年十二月分までのその製造にかかるパチンコ球遊器についての物品税として合計金百二十七万三千七百円を桐生税務署長に支払いもつて被告国に納付した。

第二、しかし原告の製造にかかる本件パチンコ球遊器に対する物品税賦課処分は以下の理由により当然無効である。

(イ)  パチンコ球遊器は約二十年前にわが国において発明された娯楽用具であるが物品税法(昭和十五年三月二十九日法律第四十号)が施行された当時、その課税物品として「遊戯具」の規定はなく又同法が昭和十六年十一月二十二日法律第八十八号をもつて改正された際、従来からあつた「玩具」と並んで「遊戯具」の規定が附加されたが、同法にも、また同法の課税物品を具体的に列挙している同法施行規則にも、いまだかつて「パチンコ球遊器」ないしこれに類する文字をもつて物品税の課税対象に規定されたことはない。従つてパチンコ球遊器は昭和十六年より十年間も物品税法の「遊戯具」の取扱をされたことはなく、この事実は国民に対してパチンコ球遊器は同法所定の「遊戯具」ではなく同法の課税対象ではないという法的確信を与えていたのである。しかるに昭和二十六年三月二日に至り東京国税局長が同日附例規間消第三十二号をもつて管下税務署長に対しパチンコ球遊器が物品税の課税対象である旨の通達を発し、さらに同年十月一日には国税庁長官が全国の税務署長に対し同趣旨の通牒を発した結果、前記桐生税務局長はパチンコ球遊器は物品税法所定の「遊戯具」の一種であるという解釈をとり、原告会社に対し前記のとおり物品を課してきたのであるが、これはあらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律に定める条件によることを必要とする旨定めている憲法第八十四条に違反するものである。

(ロ)  仮りに物品税法及び同法施行規則の列挙する課税品目のうちに、その解釈としてそれには明記されない特定の物件が含まれ得ることが許されるとしても、パチンコ球遊器を物品税のこの課税対象と解釈することは租税学上不合理である。すなわち物品税は特定の品目を指定して課税物件にし、その消費者の租税給付能力をとらえようとする租税であつて消費税の一種であり、かつ「個別的消費税」とよばれるものの一種である。従つて第一に、生産者の原料、施設、機械器具、燃料等として消費される資本的消費はできる限り物品税の課税品目から除外されなければならないことが財政学上の要請であるから、パチンコ球遊器のようにその製造業者からこれを買受けて消費する者がほとんどすべてパチンコ遊技場経営者である物件は、まさに右の請求上物品税の課税品目から除外されなければならない。第二に、物品税は「個別的消費税」であつて売上税ないし取引税のような「一般的消費税」とは異なるのである。しかるにパチンコ球遊器については、くりかえし行う同器の利用およびその利用の前提となるパチンコ遊技場のサービス(玉の使用を含む)の消費に租税給付能力を認めることが財政学的に要請されるにすぎないのであるから、パチンコ球遊器を「個別的消費税」の一種である物品税の対象と解するのは正当でない。さらにまた物品税はいわゆる間接消費税に属するものであつて、担税者と納税者とが異る関係上、消費者に税負担を転嫁させる方法が法律上認容されているのである。すなわち物品税法第三条の三第一項は物品税は消費者がこれを負担すべき建前のものとされ、同条第二項は右消費者とは当該物品の購入者である旨定めている。従つて物品税法は「当該物品の購入者」が自らその物品を消費し間接消費税としての物品税を負担するような物品に限つてこれを物品税の課税対象としているのであつて、消費者に税負担を転嫁することが法律上可能でないような租税は間接消費税の観念と矛盾し間接消費税ということができない。しかるにパチンコ球遊器の購入者は自ら娯楽用にこれを使用する者ではなくして、これを一定料金で使用させるパチンコ遊技場経営者である。故にもしパチンコ球遊器が物品税の課税対象であるとするならば、パチンコ遊技場経営者がその物品税を負担しなければならず、右経営者がその税金をパチンコ球遊器使用者に転嫁することは物品税法上許されない。従つて仮りにパチンコ遊技場経営者が物品税を使用者に転嫁しようとして使用料金を値上げしたとしても、物品税法の建前としてはパチンコ遊技場経営者が「当該物品の購入者」すなわち消費者としてこれを負担しなければならないから、料金のその値上げ部分の収入は遊技場経営者の純益として当然所得税の対象とされることとなる。これはパチンコ球遊器のごとくもつぱら資本的消費に向けられる物品を間接消費税としての物品税の課税対象とすることから生ずる不合理である。従つてパチンコ球遊器を物品税法上の「遊戯具」の一と解することはできない。

(ハ)  仮りにパチンコ球遊器が物品税法にいう「遊戯具」であるとの解釈が正当であるとしても原告の製造販売にかかる物品はパチンコ球遊器の部分品であつて、同法所定の遊戯具そのものではない。すなわち原告は木工業者より購入する木枠に、穴あけ加工を施したベニヤ板及び鋳物業者より購入するパチンコ球遊器用循環皿をとりつけ、これに各部品販売業者より購入するハンドル、釘、ベル等を設置して、パチンコ遊技場経営者に販売し、右工程までの未完成品を買受けたパチンコ遊技場経営者がこれにガラス板を設置し、更にボールを購入して装置してパチンコ球遊器の完成品を製造し、これを遊技場に備えつけて顧客を誘引するのである。しかして物品税法は昭和二十四年四月三十日法律第四十三号の改正で「遊戯具」の外に「同部分品及び附属品」の規定が追加されたが、昭和二十五年十二月二十日法律第二百八十六号の改正で右追加規定は削除され現在に及んでいるのであるから、原告の製造販売するパチンコ球遊器の部分品に物品税を賦課することはできない。

第三、以上のごとく本件パチンコ球遊器(正確にいうとその部分品)は明らかに物品税課税対象物品ではなく、本件賦課処分は無効であるから、被告は法律上の原因がないのに原告の損失において前記納付金百二十七万三千七百円を不当に利得しているものというべきである。よつてここに被告に対し右金員及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日たる昭和二十九年九月二十七日から右支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ次第である。」と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「原告会社が原告主張のころ設立され、主張のころよりパチンコ球遊器を製造販売していたが、主張のころ解散し現に清算中であることならびに東京国税局長及び国税庁長官が原告主張のころ主張のごとき通達を出したこと及び原告がパチンコ球遊器に対する賦課物品税として主張の金員を桐生税務署長を通じ被告国に納入したことは認めるが、パチンコ球遊器が物品税の賦課対象とならないことならびに原告会社の製品がパチンコ球遊器の部分品であるという原告の主張は争う。

(一)  原告の製造販売した「パチンコ球遊器」に物品税を課したことは違法ではない。

(イ) 原告主張のごとく、昭和二十六年の通達まではパチンコ球遊器に対して全く物品税が賦課されていなかつたのではなく、右通達以前には各税務署長の判断に委せられていたところ戦後急激なパチンコ遊戯の流行に伴い課税漏れのないよう右通達によつて注意したに過ぎない。仮りに原告主張のごとく右通達以前は全く課税されていなかつたとしても、それは単なる行政事務上の慣行に過ぎず慣習法たるの効力を有するに至つていない。

(ロ) 又物品税法第一条は「遊戯具」として包括的に規定しているのであつて、同法施行規則の遊戯具の項でも課税の最低価格や同法の他の項ならびに他の法令に基く課税との調整を図るための規定が設けられているだけで、課税物件を個別的具体的に列挙しているものではない。従つて物品税法同施行規則に課税物品として「パチンコ球遊器」ないし類似の文字をもつてこれが明記されていないからといつてパチンコ球遊器が課税物品ではないということにはならない。そもそも物品税法がいかなる性格を有するか又物品税法の規定する課税物品はいかなる性質のものであるかは現実の規定に基いて判断すべきものであるが、同法第一条に掲記する課税物件についてみるに、ネオン管、映写機、普通乗用自動車等のごとく主として営業に使用されるものもあり、又その他の物品でも広く営業用に使用され、もつぱら奢侈的用途に使用されるとはいいえない物品も数多くあるのであつて営業用に供される物品も課税対象としていることは明白である。このことは物品税法第三条の三の解釈からも当然導かれる。すなわち原告は同条第一項は消費者が物品税を負担することを建前とし、これを他に転嫁することを認めない趣旨であるから、もつぱら営業用に使用される物品に課税することは許されない旨主張するが、同法の課税物品は殆んどすべて営業用に使用しうるものであるから、仮りにもつぱら営業用に使用される物品を課税物品から除外しても、原告主張のごとき不合理な結果を生ずる。これその前提が誤つているからである。すなわち同法第三条の三第一項は物品税の納付義務者が実質上の負担者と異るのが建前であることを示すだけで、それ自体でいかなる消費形態で担税力が把握されているかということまで示しているものではなく、従つて購入者から更に他に転嫁することまで禁止した趣旨と解することは誤つている。かえつて同条第二項によれば、営業用に購入する者も消費者として定められているのである。

(ハ) 原告は本件パチンコ球遊器は前面ガラスがはめ込んでいない未完成品で同器の部分品であると主張するが、前面ガラスは容易に補充しうるものであつて、社会通念上パチンコ球遊器の完成品とみるべきである。

(二)  従つてパチンコ球遊器に物品税を賦課することは違法ではないが、仮りに原告主張のごとき理由で物品税法にいう「遊戯具」にパチンコ球遊器が含まれないと解することが正しく、本件賦課処分がこの点の解釈を誤つてなされたものであるとしても、かかる誤りは重大且つ明白なかしではないから本件処分を無効ならしめるものではない。また原告主張のパチンコ球遊器はその未完成品であるとしても、これは事実関係の認定の誤りに過ぎないから本件賦課処分を当然無効とするものではない。」

と述べた。

(立証省略)

理由

原告会社が原告主張のころ設立され、主張のころよりパチンコ球遊器を製造販売していたが、主張のころ解散し現に清算中であること及び原告がパチンコ球遊器に対する賦課物品税として、主張の金員を桐生税務署長を通じ被告に納入したことは当事者間に争いのないところである。原告は右納付金の返還を求めるにあたり、その前提としてパチンコ球遊器の物品税賦課処分が無効である旨主張するので、まず右処分の有効無効について判断する。

パチンコ球遊器がそれ自体として所定の方法による娯楽のためのあそび道具であることは公知の事実であつて、社会通念上遊戯具であることは明らかである。しかしこのことから直ちにパチンコ球遊器が物品税法にいわゆる「遊戯具」に該当するものであるとして課税し得るかどうかはさらに検討しなければならない。

パチンコ球遊器は相当以前にわが国において発明された遊戯具であるが終戦後とくにその流行を見ていることは公知の事実であつて、当初物品税法(昭和十五年法律第四〇号)にはその課税物品として遊戯具の規定はなく、昭和十六年の改正(昭和十六年法律第八八号)において従来からあつた「玩具」と並んではじめて「遊戯具」の規定が附加されたものであるが、その後今日にいたるまで同法にも同法施行規則にも「パチンコ球遊器」ないし同種の文字をもつてパチンコ球遊器が物品税法上の課税物品であることを明示したものがないことは原告所論のとおりであり、昭和二十六年三月及び十月に相ついで東京国税局長及び国税庁長官が原告主張のような通達及び通牒を発して以来各税務署長においてパチンコ球遊器は物品税の課税物品であるとして広く課税処置が行われるにいたつたことは弁論の全趣旨からこれを認め得るところである。しかし右通達以前にもパチンコ球遊器について物品税を課した事例は絶無でなく、すでに昭和二十五年ごろには名古屋国税局管内においてその事例を見ていることは証人熊倉弘二の証言によつて明らかであり、証人石原俊一の証言によればパチンコ球遊器の生産は戦後その流行に応じて昭和二十四年ごろから急速に上昇し、それにつれて税務署によつてはこれに課税するところもあり、課税しないところもあつてあらたにパチンコ球遊器が物品税法上の課税物品なりや否やが問題とされるにいたつたものであることがうかがわれる。これらの事情によつて考えれば、右通達通牒以前においてすでにパチンコ球遊器は物品税法上の課税物品でないとの法的確信が国民の間に支配していたものとみるのは相当でなく、右通達や通牒は従来統一していなかつた解釈を統一し行政上の方針を一定せしめる目的でなされたものであり、これによりあらたに租税を課することを定めたものでもなく、また従来の租税を改めたものでもないと解すべきである。従つてパチンコ球遊器なるものが物品税法上「遊戯具」に該当するものと解釈することが許される限り、右通達通牒の有無にかかわらず、その課税は憲法上の要請たる租税法律主義に反するものということはできない。

よつてさらにパチンコ球遊器が物品税法上の「遊戯具」に該当すると解釈することが許されるかどうかを考える。物品税法は数多の物品をその課税物品として列挙するところ、その列挙にかかる品目は必ずしも個別的具体的でなく一定の内包を有する名称をもつているから、ある特定の物件がそこに規定された品目に該当するかどうかは多かれ少なかれ解釈を要するものであることは免れがたいところである。そしてこれを解釈するにあたりその特定の物件が社会通念上物品税法のかかげる品目の類概念に内包されるかどうかという点にとどまらず、それが課税物品であるとすることが物品税法の規定する物品税の本質にむじゆんすることがないかどうかをも検討するのでなければ、その解釈は正当のものといい得ないことはこれを諒し得るところである。

この点について先ず原告は物品税は特定の品目を指定して課税物件とし、その消費者の租税給付能力をとらえようとする租税であるから消費税の一種であり、かつ個別的消費税とよばれるものの一種であることを前提とし、その故に生産者の原料、施設、機械器具、燃料等として消費される資本的消費財は除外されるべきであり、パチンコ球遊器はこの意味の資本的消費財であるから物品税の対象から除外されるべきであると主張する。今日日本において見るパチンコ球遊器の使用の現状は、全国的にいわゆるパチンコ営業のため遊技場経営者がその営業用施設としてこれを用いるのがもつばらであることは公知の事実であるから、パチンコ球遊器は主として遊技場経営者の営業用施設として使用されることを目的とするものというべく、従つていわゆる資本的消費財といい得るであろう。成立に争ない乙第一、第二号証の記載(別件における鑑定人武田隆夫の鑑定書及び鑑定人尋問調書)に鑑定人木村元一の鑑定の結果をあわせると、財政学上消費税とは生産者と区別された意味での消費者が特定品目の財を消費、使用もしくは利用する場合、これと関連して行う所得の支出にあらわれると考えられる租税給付能力を課徴しようとする租税であるが、物品税法所定の物品税が租税体系上この意味の消費税に属するものといい得るかどうかについては学者間にも争があり、これを消費税の範囲に属するとしても消費税がいわゆる資本的消費財にも向けられる場合の存することは否定されていないのであり、物品税法施行の当初は物品税は消費税として出発しながらその後次第にいわゆる流通税的色彩を濃くして現在にいたつており、少くとも同法第一条には流通税の課税対象というべき多くの物品が掲上されるにいたつていることは明らかであるのみならず、そもそもある物品が消費財であるか資本財であるかはその物品が固有する自然的性格によるものではなく、その物品の社会的経済的使用ないしは利用方法いかんによる相対的区別であつて、もつぱら資本的消費にのみあてられて全然消費的消費にはあてられないという物品というものは考えられないのであるから、それだけの区別をもつて当該物品に物品税を課することの当否を論ずることは相当でない。

また原告は物品税が消費税のうちでも一般的消費税と異なる個別的消費税であるから、パチンコ球遊器の場合のようにくりかえし、くりかえし行う同器の利用およびその前提となるパチンコ遊技場のサービスの消費に租税給付能力を認めるのはその趣旨に反すると主張する。しかしパチンコ球遊器への物品税課税が直ちに原告主張のようなところに担税能力を認めるものといい得るかは疑問であり、むしろ物品税法上はパチンコ遊戯場の経営者その他転売の目的以外のためにパチンコ球遊器を購入する者がその消費者であり、そのためにする所得の支出に担税能力を見ようとするものであると解することはなんら不合理ということができない。

さらに原告は、物品税は租税体系上いわゆる間接消費税に属するものであつて、もつばら資本的消費財として使用されるパチンコ球遊器のごとく、購入者の税負担の転嫁が法律上可能でないような物品については、これを物品税の対象とし得ないと主張するところ財政学上消費税とは生産者と区別された意味での消費者が財を消費、使用もしくは利用する場合これと関連して行う所得の支出に現われると考えられる租税給付能力を課徴せんとする租税であることは前記のとおりであつて、物品税が租税体系上この意味の消費税に対するものというべきかどうかはともかくとして物品税法第三条の三第一項は物品税はその物品の消費者においてこれを負担する建前のものであることを規定している。しかし物品税における転嫁の建前は単に物品税の法律上の納税義務者とその税金の実質上の負担者とが異るべきことを示すにとどまり、それ自体においていかなる消費形態において担税力が把握されているかということまで示すものではない。けだし物品税は消費者への租税負担の転嫁を前提として存立するものではあるが、その転嫁の有無、態様についてはこれを理論上一律に定めることはできず、究極においてはその税負担を消費者に帰着するよう立法者が配慮し、従つてその転嫁の可能性がいちおう期待されているということ以上には出ないのであつて、ひつきよう物品税法の規定自体の合理的解釈より決しなければならない。物品税法はその第三条の三第一項で転嫁の建前をとるとともにその転嫁は同条第二項において常に売買行為によつてのみ行わるべく、その他の法律行為によつて行われることを禁止している趣旨ではないから、パチンコ球遊器のような資本財というべき物品の購入者(パチンコ遊技場経営者。)は物品税法上第一次的に同法第三条の三にいわゆる消費者としてこれを負担するとしても、この購入者の税負担を第二次的にその実質的な最終消費者(パチンコ遊技場の顧客)に転嫁することはなんら物品税法の関するところではないのである。パチンコ遊技場経営者がパチンコ球遊器の購入者として負担した物品税相当額が経費として所得の計算上損金とさるべきことは疑いないから、右の転嫁の可能性はあるものというべく、この傾向は現在の国民経済上是認せられるものであるからパチンコ球遊器についてはその税負担を転嫁し得ないことを前提としてこれに物品税を課することは不当であると主張する所論は失当である。

これを要するにパチンコ球遊器が社会通念上遊戯具であると認められ、かつこれを物品税法の物品税課税物品に含ましめることが同法所定の物品税の本質に反するものでないことは明らかである。

次に原告は原告製造販売にかかる本件パチンコ球遊器は前面ガラスのない未完成品であつて、パチンコ球遊器の部分品にすぎない旨主張するが、証人石原俊一、同中島源治の各証言(後記排斥にかかる部分を除く)によると、パチンコ球遊器が世上に出まわつた当初は前面ガラスのはめ込まれたパチンコ球遊器を製造業者は各遊技場経営者に販売していたが、パチンコ球遊器はその損耗も早く又型や機械にも流行があるため遊技場経営者は次々とパチンコ球遊器を購入しなくてはならない上、パチンコ球遊器はその大きさは大体一定していてしかも前面ガラスは遊技場経営者が容易にはめ込み取りはずしが出来る関係上、遊技場経営者は前面ガラスを取除いた機械をそのガラス代だけ値引いた価額で製造業者から仕入れ、それに廃品パチンコ球遊器のガラスをはめこむことが行れるようになつたことが認められる。この事実と公知の事実に属するパチンコ球遊器の構造及び用法にかんがわれば、パチンコ球遊器に前面ガラスは不可缺のものであるが、その全体の生産過程において前面ガラス設置のみ占める割合は微々たるものでなんら実質的部分を構成せず、しかも自由に補充し得る附加的代替的部分に過ぎないというべきであるから、前面ガラスのないパチンコ球遊器は社会通念上物品税法所定の「遊戯具」に該当するものと解するのが相当である。右認定に反する証人石原俊一、同中島源治の各証言は採用せず、物品税法がかつて「遊戯具」の外「同部分品及び附属品」の規定を追加し、後またこれを削除したことはなんら右結論を左右するものではない。

以上判示のとおりであるから本件物品税の賦課処分が当然無効であることはこれを認め得ないものというべく、従つて本件賦課処分の当然無効であることを前提とする原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 菅野啓蔵 小谷卓男)

(別表省略)

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